Summer Reads 2016
夏の読書。
シーラッハ。
- 作者: フェルディナント・フォン・シーラッハ,酒寄進一
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2012/02/18
- メディア: 単行本
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犯罪と禁忌を読了、罪悪を読んでいる所。淡々とした、クールな文体が涼しくて良い。
訳も、上手いな、おそらく原書(ドイツ語)のトーンがしっかり出ているのだろうな、と思う。のですが。ちょっと難もある。1作目の「犯罪」のレビューに、誤訳が多い、抜けている箇所がある、という指摘があり、版元は、母国での映像化にあたり大幅に改訂されたため、としているのだけど。抜け箇所はそうなんだろうけど。他の誤訳は、ただの誤訳なのではという気が。がっつり検証しているサイトがあり、確認すると、自分で読んでいてひっかかって読み返したような箇所が上がっていて、指摘を読むとなるほどと納得できる。他の2作品も、同じような違和感を感じるところが複数ある。単純な名詞の訳だったり、文の流れだったり。記憶にある物から例を挙げれば、豚の「髪」は「毛」じゃないのかとか、フードや腹ポケットのある「ニットシャツ」って「スウェットのパーカー」のことじゃないのかとか。どう読んでも流れない箇所があったり。原書読んでないしドイツ語分からないので、何とも言えませんが。
レビューや指摘を読んでいなければ、そういうひっかかりも、まあ翻訳だからな、現地の慣習や風俗だとそうなのかな、で流せるくらい、全体の流れは良く、おもしろいです(おもしろいといっても、気分が暗くような話もあります)。
禁忌はよく分からなかった。事件自体がアートってこと?そんなので警察動かしたり刑事裁判まで??重要なポイントっぽく挙げられてる伏線が回収されないままなのもさっぱり(私の知識が追いついていないのかもしれないけど。スフィンクスって結局???隣のアパートに二人いたのは??)。そんで何が禁忌???(tabuってドイツ語でもタブーっていう意味なんだろうか。)さっぱり分かっていません。こういう訳の分からないことをする人もいるってことだろうか。主人公が共感覚である必要性も特にないように思う。犯罪の筋以外の流れ、主人公の生い立ちの話は好きでした。
見えていることが真実とは限らない。誰でも原告や被告になり得る。表に出てる犯罪の裏に隠れた別の犯罪行為があることだってある。冤罪だってある。著者は弁護士で、仕事から着想を得て書いているだろうから(実話に基づくとある作品もあるけれど、おそらくそのまま持ってきてはいないんじゃないだろうか??)、それぞれの話について、そういうことも現実にあるんだろうな、と思う。とすると、禁忌も、何がどうっていう訳じゃなく、そういう荒唐無稽なことをする人間もいるっていうことかな。それにしても伏線の意味は分からないけども。完全なフィクションじゃなければ、要素の全てに必要性はがある訳ではなく、共感覚もまあたまたまそうだっただけとか。
訳が気になってしまうので、とりあえずこの3冊で休憩を入れて、しばらくしてから他の作品も読んでみようかなと思います。
否定的なことばかり言っているようですが、翻訳の細部を気にしなければおもしろいのでおすすめです。
こちらは最新作ですが、読んでいませんが、この表紙ひどい。仮の画像かと思った。原書の表紙は良いのでそのまま使えばいいのに。犯罪と罪悪は、原書とは異なる表紙だけどハードカバーも文庫もとてもいいのに。どうしたんだ、版元変わったのかと思ったけど変わってない。
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村上さんの旧作。まだ途中。
村上さんの作品は、エッセイや短編は好きだけれど長編は多分2作品しか読んでいない。これは、1986年から1989年にヨーロッパに滞在した時の記録で、ずいぶん前の話なんだけど、80年代か、と振り返るおもしろさがあるし、旅や外国での暮らしや食べ物の話ってやっぱり基本的におもしろいな。
それにこれは私の知っている村上作品と比べてとても文章が軽いところもおもしろい。内容も調子も。奥さんとの様子とかあまり書かないようなイメージだった。若さと、海外にいる気楽さなのかな。文庫本のためのあとがきに「僕もこの頃はけっこうまだ若かったんだなと我ながら感心するところがあります。今だったらこういう風には思わないし、こういう風には書かないだろうというようなところも正直に言って多々ありますが、こういう文章はあくまで「そのときのもの」なので、文庫化に当たっては(細かい文章的な箇所は別にして)原則的に手は入れませんでした。」とある。刊行は990年、文庫化は1993年、村上さんは1949生まれなので、書いたのは30代終わりの3年くらい、文庫化は44才位かな。やっぱり、40代半ばから考えると30代はけっこうまだ若い、だろな。
どこかに行く時にもどこへも行かない時にもおすすめ。
村上さんの長編もちょっとずつ読んでみたい気がしてきた。