読書、続き

朝比奈さんの作品についてはひとまずこれが最後。

これ、皆が読んだらいいと思った。

下にはいつもの通り、自分のためのメモ的に記憶に頼ってあらすじ綴っています。(記憶に頼っているのでちょっと違う所もあるかも。)

 

光さす故郷へ

光さす故郷へ

 

体が弱かったこともあって大事に大事に育てられたお嬢さんが、軍の要職で満州駐在の男性と結婚して満州に渡る。見合いのため帰省していた男性が見合い相手を気に入らず、実家の小間物屋だったかな、で店番していた彼女にひとめぼれしてささーっと見合いを設定、結婚に至った。満州では阿片栽培で財を成して日本軍とも上手くやっている現地の人の家にゆったりと居候させてもらい、戦争なんてどこの話かという感じの悠々とした生活。このご主人の奥さん達(奥さんが複数いる)やその子どもともいい関係を築き楽しく暮している。子どもが生まれて一度帰省し、母と満州へ戻ってゆったり暮らしているけれど、戦況が怪しいから帰った方がいいと兄(だったかな)が母へ注進し、母は日本へ。なぜここで、彼女も帰国しなかったのかと思うけれど、彼女は妻として満州へ残るべきと思われたのかも。彼女が帰国したらなんで?日本やばいの?という印象を周りへ与えかねないし。

 

で、日々のんきに暮らしていた所へソ連軍が迫って来る。夫の残した荷物の中にもしもの時はこれで自死をという遺書と拳銃。これに怒りを覚えるよし(主人公の名前)。居候先のご主人は、自分の娘と言うことにしてここにいればいいと言ってくれるけれど、逃げることを選ぶ。これまでの彼女の来し方を思うと、その言葉に甘えて残るんじゃないかと思うんだけど、意外と強い。ご主人が色々用意してくれて、持てるだけの食料を体に巻き付けて、小さな娘を抱えて、どうにかこうにか列車に乗って。。。

 

このご主人もこの後どうなったのか。無事だといいけれど。日本軍や日本政府と上手くやっていたのか仇となったりしなかっただろうか。

 

帰国までとにかく過酷な旅が続く。けれどよしって幸運を引き寄せるタイプなのか、所々で良い出会いに恵まれてすごく助けられてる。病院での仕事にありついてなんとか暮らしている中、帰国を決めて、仲間と港へ向かう。見つかってはいけないので、遠回りして山道を行く。5歳くらいの男の子の母親が死んでしまい、男の子はその場を動かない。○○ちゃん行きましょう!と呼んでも動かない。時間もない、皆その子を連れていける体力もない、置いていくしかない。川の流れに子をさらわれておかしくなってしまう母親も。せっかく山道を抜けても、履いていた足袋だったかわらじだったかがすっかりぼろぼろで足裏が傷ついているせいで治療が必要でその先へ行けないリーダー的存在の夫婦。よしは下駄だったので助かってる。

 

やっと、やっと船に乗って、日本へ向かう中、息絶えてしまう娘。片言を話せるようになったかわいいさかりの娘。船員?に海へ捨てるよう言われるけれど(衛生的な理由だったか)、「死んでいない!死んでいない!」と叫ぶよし(言葉は違ったかな、生きている子に話しかけるように、話していたのだったかも。)。船員は哀れに思ってか見過ごしてくれる。

 

日本(福岡だったか山口とかだったか...)の港へ着くと、同じように船で子供が息を引き取った女性が数人いて、火葬してもらう。いちばん年長ぽい女性が、私たちはがんばって生きよう、みたいなことを言ってくれる。骨とともに故郷へ。駅へ迎えに来ている家族は姿の変わり果てたよしに気付かず、よしも家族に気付かず自分で実家へ。そして駅から帰ってきた家族と再会。

 

しばらく静養し、美容師になる。再婚もする。そして年月が経ち、親戚(著者の祖父だったかな)の葬儀で、著者と初めて会い、その後訪ねて来た著者にこの話をしたという設定です。(というか、構成は葬儀云々が最初。)

 

著者の筆力がすごかった。上手い。(これが初の出版作のよう。この作品の後に出しているのは全て小説。)

 

よしさんの話、皆読んだらいいと思う。満州とか引揚者とか残留孤児とかその帰国とか、聞いたことはあるし概要は知っているように思っていたけど、ただ一人の人の体験談ではあるけれど、より理解できる。話せなかったこと、書かないでおいたこともあるかもしれない、とも思う。人の数だけ話がある。平和だったら、戦争しなかったら、侵略していなかったら、ということがたくさんある。

 

人間ってなにかね。色んな規模の集団が形成されてとにかくずーっと争って。グループを作って争う他の動物もいるけど、こんなに多くを巻き込まない。言葉を持たなければ、他の動物のようにいられたかなあ。

 

この表紙もとてもいいと思う。古い雰囲気の、爽やかな絵、実直な文字。

 

こういう話や、事故なんかの話でも、生き延びるエネルギーの話に接した時、私には無理なんじゃないかと思う。どこかで諦めてしまうんじゃないかと。こういう生きるエネルギーがあるかどうかって何が違うんだろう。と思うけど、そういうことでもないのかな。(子どもがいるというのは違いを生みやすいだろうとは思う。守らなければと思うだろうから。)エネルギーどころじゃなくて、どんなに強い思いで生き延びたくても死んでしまう場合だってあるんだし。