(カズオ・イシグロと日本のメディアについてみたいなこと)

自宅前での会見映像あった。

www.youtube.com

 

どの質問にも丁寧に、そして楽しんで答えていて、プレス担当の人かな、もう時間がないので終わりに~と言ってる後もそう。すごく良い意味で、普通に性格が良く、普通に礼儀正しく、賢い方だなという印象。

 

新聞には太字で「川端、大江氏に続き「感謝」」という見出し。「村上春樹氏の名前を挙げて~」とも。自らが滔々と日本への感謝と春樹を語ったかのような印象を与えようとするのはやめようよ。。他にもいい話が出てるのにそれには全く触れないのもなんでなの。

 

日本について触れたり感謝云々というのは、やっぱり日本サイド(定かではないけど質問内容や記者の発音を聞くとそうだろう)の、この質問を受けてのこと。 "Do you think that something Japanese inside yourself has been evaluated... you know...contributed to this...ahh"(あなたの中の日本人である部分が今回の評価に貢献したと思うか?)(thisで何を言いたいかは明らかじゃないけどまおそらくノーベル賞のことかと)。

 

これに丁寧に答えたんです。イギリスで教育を受けたけれど日本人の両親のもとで日本的な家庭で育ち、子どもというのは誰でもそうであるように、常に自分の一部は両親の見方を通して物事を見ていた。自分は部分的には常に日本人であり、それは小説家としてのタイミング的にも役に立った。初出版の頃は文学が国際的になっていった時期だったから。

 

国際的に~というのは、出版され始めた頃にイギリス等の文学界で他地域(日本を含む)のものが受け入れられやすくなっていったり、読者の関心が他地域の空気の感じられる作品に集まりやすくなっていた、うけやすかった、売れやすかった、ということだろう。そういえばこれ以前にも話してた。

 

現実的なことを言ってる。成功するにはそういう背景もある、運やタイミングもある、ということ。そこに関して、自身の日本ルーツは役立ったと。

 

イシグロの謙虚さの表れでもあるかなと思うのだけど。一方日本メディアの日本推しの傲慢さが。。。(こういうの触れずに行こうと思ってたけど、やっぱりひどくて。)

 

文学界の国際化を念頭に話しているのに、国内メディアはそこを省いてしまっているので、本来の意図からそれて、受賞について日本に感謝!日本人の感性が評価されたんだね!みたいなことに変えられちゃってるけど。「作家自身の中の日本」の影響がしっかりとある作品が評価されているのは事実だけど、このインタビューの伝え方としては違う。

 

日本人全体の感性が評価されたというような見方は行き過ぎで、あくまでイシグロの持つ日本、日本的なものが作品に大いに影響していて、それは読者を惹き付ける大きな一因にはなっている。それは事実で、それで充分ではないですか。(当然日本だけでなく、イギリス、そして作者が人生で触れて来た、その他の様々な世界の影響もある。)

 

この後の別の記者の質問が良い。「いま世界では、歴史を逆戻りする影響について必ずしもしっかり考えることなく、過去を懐かしむ風潮が高まっている。(各国や各地のメイク・ナントカ・グレイト・アゲイン的なことを指しているのだろう。)あなたは歴史や、現在を生きる我々と過去とのつながりについてよく話しているが、これが受賞理由だと思うか。」

 

これに答えて、「審査委員の考えは分からないが、ステートメントにも記したように、私が作品を通じて取り組んでいるテーマ、個人、国、国家、コミュニティが、どう過去を記憶しているか、そしてどれほど頻繁に都合の悪い記憶を埋めてしまう(なかったことにする、覆い隠してしまう)か、このテーマが、我々が作り出してしまった今の不確かな世界で少しでも役に立つといいと願っている。」

 

これも、「忘れられた巨人」の出版に合わせた来日時に話してた。日本にも言えることよね。日本のメディアでこちらも伝えられるといいのに。(bury、埋めるという言葉を使っていて、「忘れられた巨人」は「The Buried Giant」なのだけど、このタイトルも人間は都合で過去を葬り去ろうとすることを言ってる。)

 

私が目にしたところでは、日本のメディアに出てる人は、登場人物に強い愛情を注いでいるのが読者にもよく伝わる、人と人が強く繋がれることを伝える作品を生んでいることが評価理由です、と言い切ってるコメントがあったけど。どうなの。確かにそういう一面はあるし、文学の解釈は人ぞれぞれでいいのだけど。専門家のコメントとしてどうなのかな、読んだのかな。

 

村上春樹についても、日本の記者が具体的に質問してる。「How about Haruki , Haruki Murakami? How about.....?」受賞にふさわしい作家としていちばんに思い浮かぶ名前は村上さん、他にもたくさん名前が思い浮かぶ、等々答えている。

 

それでこの後、ドイツ2DFの質問とイシグロ氏の答えがまた良い。「ブレグジットという時期に日本人作家としてイギリスで活動していることについてどう考えるか?」この混沌とした時代に、自身のルーツとは異なる世界で生きていくこと、移民たちのことや異文化・多文化、等について考えての質問だと思う。

 

お答え。「前向きに捉えたい。皆に国際的に(日本語で言う「グローバルに」ということだろう)物事を捉えてほしい。困難な中でも、内向きになって他者を切り離すことを考えるのではなく、外に目を向けてほしい。いま世界は良くない状況にあると思う。ノーベル賞は、文学賞だけでなく他の賞も、世界の人々を一つにする役に立っているのではないか。そして我々は皆人間であることを思い出させてくれる。」

 

日本のメディアって、自社の質問(現場が海外だと自国メディアの質問?)への答えしか報道できないのかな。。国内の会見だとそのせいなのか同じような質問がよく出てるけど。

 

エンタメ的な質問ももちろんありだし、良いけど(そういう視点は日本だけじゃなくて、海外メディアも「誰が受賞すると思った?」と聞いてる。他の記者の質問が重なってしまって答えはなかったけど)、ジャーナリズム的な、もちょっと違う方の理解も深まるような内容も併せて伝えてほしい。

 

色々書いたけど、イシグロ作品は、真摯であり深みもあり、思考を刺激してくるけれど、普通の人間の気持ちを繊細に描いているから、エンターテイメントとしても面白い。なので、これを機に初めて読む人にも、受け入れられやすいのではないかな。

 

読書離れって実際あるのだろう。この機会に、小説のおもしろさ、小説を読む楽しさを新たに体験する人が、きっと、少なくとも少しは、増えるんじゃないかな。長崎の若い男の子たちが、読んでみようと思う!って言ってたの、なんだか嬉しかったな。

 

カズオ・イシグロという、日本人にとって親和性の高い作家、日本人の関心が向きやすい作家がこうして注目されたことは、そういう点でも良かったなと思う。

 

Guardian。

Kazuo Ishiguro wins the Nobel prize in literature 2017 | Books | The Guardian

こちらは、自宅前と、その後のきれいな場所での会見内容をまとめてあるのかな。上に書いた良い質問の答えにも関するような点で、よりしっかりした自身の見解が聞ける。

 

NHK

Kazuo Ishiguro Wins Nobel Prize in Literature for 'Novels of Great Emotional Force' - NHK NEWSLINE - News - NHK WORLD

nhkワールドニュースは良いではないですか。

 

TIMES。

time.com

こちらの記事では、He has said he does not see his work in the vein of Japanese literature, (過去には自身の作品について日本文学だとは考えていないと述べている)とある。いつの発言なのかは不明だけど、そりゃそうだ。

 

これは後で見よう

ノーベル文学賞:カズオ・イシグロさん 長崎出身の日系人 - YouTube

これも。

世界的作家、カズオ・イシグロが英国大使館で記者会見 - YouTube

 

文学賞で延々とひっぱりましたが、平和賞、良かったと思う。