引き続き、取り留めのない読書の記録。

 

ちいさなちいさな王様

ちいさなちいさな王様。ドイツの作家。渦中の論文の報道で知った本。小さい王様が何するん?と気になって借りてみた。これは中学生の感想文課題図書に指定されたそうですが、特にその年齢向けという訳でもなさそうな話。中学生の自分がこれを読んだら何を書いたんだろう。シュールなような哲学的なような。現実的でもあり。妙な面白さ。ホッパーを思い出す、静かだけどどこか落ち着かない挿絵がとても良い。読む度感想は変わりそう。大人になると可能性や夢を忘れてしまう、忘れてはいけない、とか、そういう言い古されたことではないような気がする。

 

本の感想という訳ではないけれど、amazonに面白いレビューがあった。物理学者の話を聞いてこの本の面白さが増したと紹介し、ご自身の解釈が綴られている。以下「」内はレビューからの抜粋と要約。「絶えず勉強し、“知っている人”ほど謙虚であると感じることがよくある」「知れば知るほど自分という存在は小さくなっていく。言い換えれば、世界は広がって行く」「勉強を続けていれば世界=可能性も広がり続けるという希望」「“知らない人”ほど、自分が大きいわけです。」という一文にはどきっとした。

 

小さい王様は自分は大きいと、主人公のサラリーマンは自分はちっぽけと思っている。王様は自分に満足そうで幸せそうで、主人公にさほど幸福感はない。現実と折り合いをつけて淡々と生きている。主人公は家賃や税金や保険のことも考えないといけないしそれは現実。そういうことを考える必要のない王様は気楽。うーん。至って現実的に現実を生きている主人公の方がポイントなのかな。現実的な人間なんだけど、とうてい現実味のない王様の存在をすんなり受け入れているという所が。煩わしいことの少なくない現実なんだから、少しの柔軟性とユーモア、少しの想像力があった方が、楽しく過ごせるよ。先を心配し過ぎるのも良くないし。そういうことだろうか。王様は、現実を少し楽しくする小さな要素の象徴なのか。この作者の他の本も読んでみたい。

 

 

爪と目

 

小さな王様は、日常がつまらないなら夢や想像を本当だと思えばいいじゃないか、そうすれば仕事がつまらなくたって関係ない、のようにも言っていた。爪と目に出て来る小説で、独裁者が、目をつぶっていれば大丈夫、見えなければないのと同じ、と言っていたのを思い出した。

 

爪と目、この人の本は初めて読んだ。一文一文が短く、外から内へ、外から内へ、入ってくる感じが心地よい。入ってくるとはいっても、同じ距離感で外から内へを繰り返していて、どんどん内へ入り込むのではない。

 

私は面白く読んだ。賞については分からない。いいんじゃないかなとも思う。ただ最後の二段落がどうにも分からなかった。最後というのは、娘がコンタクトの替わりにネイルを継母 (になったのかな、話の中ではまだ入籍はしていない) の目に入れる、というのではなく、その後の、ガラス板の記述。何を言っているのか表しているのか、ピンと来ないのであった。

 

他については特に気にせず読めた。「わたし」がこの物語を語っている時に3才ではないのは読む内に明白。そして成長した「わたし」であることで、少し話が引き締まったと思う。「わたし」が知り得なかっただろうことも書かれているけど、「わたし」の回想だけでなく、ナレーションの役割や作者の代わりに話していることを含んでいても違和感は感じなかった。

 

ネイルを目に、については、私は素直に、目が見えてないから、コンタクトみたいだから嵌めてあげたんだろうと思ったけど。ただそれがもともと傷ついていた継母の目を更に傷付け、見えなくなってしまったかもしれない。成長した娘は、継母は父親の不倫相手だったと知り、憎しみを覚えたかもしれない。

 

ホラー小説として読んでいなかったので、そんなふうにさらーと読んだんだけど。ホラーなの?普通のホラーなら、そうか、母親が娘にのりうつってということ?私はそれでも嫌じゃないけど、そういうべたな意味でのホラーではないのかな。

 

淡々と繰り返される回想の中に数回だけある、娘が成長してからの出来事の語りにくっと引き付けられる。けど最後はやっぱり分からないー。

 

他に短編2本収録。どちらも悪くない。この文体が好きなので、こちらも別の作品も読んでみたい。